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オカルティック・ナイン感想~止めさせてレディオDJ~

チヨマルスタジオ(5pb)がお送りする科学ADVシリーズ最新作『オカルティック・ナインPS4/VITA)』

その出来が(悪い意味で)衝撃的すぎて思わずブログまで開設してしまいました。

十数年ぶりのブログの内容が愚痴ってなんやねんとは自分でも思うけれど、わざわざ限定版買ってこんなもん掴まされたのはシリーズファンからすると完全に事件でしかないので、これ以上悲しい思いをする人が出ないよう覚悟をして貰うための記事でもあります。

 

ネタバレしてるのに覚悟も何も無い?大丈夫だ、既にアニメを観たなら、ぶっちゃけそれ以上のものは存在しないから。

ストーリー

ニート神』を自称しアフィリエイトブログで儲ける事を夢見る我聞悠太はある日、ネタ作りのための取材で訪れた大学で、取材対象であった教授が何者かによって拷問、殺害されているのを目の当たりにしてしまう。直後に響く謎の声に導かれるまま、死体から『鍵』を手に入れ逃走する悠太。しかしそれは、大いなる陰謀へ巻き込まれる『鍵』でもあった……

数日後、井の頭公園の池に256人が集団入水自殺を図るというショッキングな事件が世間を賑わせる。当初はそれをネタにしていた悠太であったが、やがて彼はその犠牲者の中に自分自身が含まれている事、既に自分が死者である事、その事件は誰かによって仕組まれた陰謀である事を知り、そして自身にまつわる秘密にすら否応なしに立ち向かう事となるのであった。

全体感想

結論から言いますが、全体的にすっげえ薄っぺらい

というのもこのゲーム、大きく3つの問題があって、それぞれ『時期の問題』『構成の問題』『システムの問題』が見事に(最悪に)噛み合って、ファンである程にインパクトを薄れさせるという完全に駄目な作りになってます。

冒頭で言った「アニメ観てりゃいい」っていうのは誇張でも何でもなく、マジでそれ以上の物が存在しない。一応、次回作に繋がる伏線のようなものは張っていますが、果たしてこれで見放されるとは考えなかったんだろうか……語源の通りの狂信者しかいないと思ってませんか、社長。

しかしながら、本筋は面白くない訳ではないというかなりモヤッとさせられる中途半端な感じ。キャラも(設定では)魅力的な人物が多く、9人の変わり者が世界に満ちたオカルトを暴く!というコンセプトはワクワクさせてくれる事うけあい。

惜しむらくは「そんなコンセプト知ったこっちゃねえ」とばかりにひたすら薄くペラく引き伸ばされた物語を延々読まされたって事かな……。

さて、それぞれの問題について自分なりに纏めます。

時期の問題

本作は発売の経緯がちょっと特殊で、まず原作である志倉千代丸氏による小説『オカルティック・ナイン』があり、それが未完の内にアニメ『オカルティック・ナイン』が放映、その後に本作であるゲーム『オカルティック・ナイン』が発売される、という経緯がありました。なお、ゲーム発売時点(2017年12月)で原作は未だ完結のめどが立っていません。そこもしっかりしてよ、社長。

もうこの説明だけで終わってるんだけど、要は時期が後手後手に回りすぎてどうしても「一度見た話をもう一度見る」事になっちゃってるんですよね。特にゲーム以外も追っかける熱心なファンほどその傾向が強い。

でもこういう他媒体展開作品って普通、各メディアで違う結末、違う魅力を用意するでしょう。ゲーム『オカルティック・ナイン』はそうはならなかった。違う魅力を用意できなかった訳です。

無理にひねり出すなら「アニメだと早口、小説だと無音の台詞をゆっくり声付きで読める」くらいでは?あ、曲は最高です相変わらず。オレ、千代丸、音楽の才能、スキ。千代丸、音楽、神。

とは言え最初はこうはならず、ゲーム版ももっと早く出すつもりだったのだろうなと好意的な推測をしてみたりもします。実際はアニメより早く出したかったのでは?やむを得ない理由があってこうなってしまったなら本当に悲劇だと思うよほんと。

やむを得ない理由があろうが完成してない物語を売るのは感心しないけどな。

そんな時期に売ったもんだから、ゲーム版のシナリオ展開は徹底的にアニメを薄く延ばしたものになっています。いや、後述するけど描写が少なくなってるせいでアニメより嵩が少ない気さえします。

同じ展開、同じような結末。ただそこに関わる人物が違うだけ。TRUEルートはアニメそのままですが、まさか良いシーンの台詞までほぼそのままとはな。そこは好きな部分だからいいけど、もっとこう…あるだろう!

構成の問題

本作は全ての物語が主人公・我聞悠太の一人称視点で語られます。よくあるノベルゲーですな。

これは科学ADVで言えば『シュタインズ・ゲート』も同じだったので、本来なら全く問題無い、はずだったのだけれども……。

たぶん、本作に関してはこの構成が一番の

ノベルゲー、ギャルゲーはあまりプレイした事がない上での感想になるけれども、一人称で固定するという事は当然、主人公が接しない事象はプレイヤーすら決して知り得ないという事が大原則として存在していて、それをプレイヤーも含めて知るのは事が起こった後である、というものがお約束。

シュタインズ・ゲート(以下シュタゲ)では主人公・岡部に視点を固定する事で、彼が見たものはそのままプレイヤーにとっての真実であり、また後の展開を打破する鍵でもあり、そしてある意味彼の狭量な視点を通す事でヒロイン達や身近な人物すら疑ってしまう不気味な空気を作り出す事に成功していた。これは初めてプレイした時「やられたなあ」と思わされたものです。詳細はゲームやって。できればゲームでやって、シュタゲは。マジ。

一方『カオス・ヘッド』『カオス・チャイルド』では他の人物の視点もあり、前者はそれすらトリックとして扱われているという妙があるので、今回もそれらの作品に負けない何かがあると期待していたんですよ。

ちなみに『ロボティクス・ノーツ』は2人の主人公の視点があるので、ちょっとこの場に当て嵌まらないので挙げません。

さて、オカルティック・ナインに何があったのかと言うと、結論から言えばこんな構成にした意味は何もありませんでした。薄っぺらポイントその1である。

まず、悠太の視界はあまりに狭すぎる。どころか、過去作の主人公のように一方面に突き抜けた知識や技能も無いので、良くも悪くも平凡な隅っこ高校生になってます。常に下見て歩いてる主人公からは物語は生まれないってのがよく分かってしまった。

彼は目の前の事象に逐一リアクションをして、それをブログに取り上げ、後の展開は閲覧者のコメント待ちという典型的な傍観者型の主人公で、自分からアクションを起こす事はまずありません。オカルト否定系ブログの管理人でありながらオカルトに対する知識や自説はあまりに拙く、(ルートによって何故か変わるけど)界隈では有名な『コトリバコ』の名前すら初耳である始末。これはキャラがペラいというより、あえてそういうキャラにしているのだと思うのだけれど、逆効果だとしか思えない。

岡部のように好奇心が強く色々な所に出向いて出会いを果たすようなタイプではなく、かと言って『カオス・ヘッド』の拓巳のように閉じている事がアイデンティティでもなく、ただ知らない、ただ動かないだけの人物でしかない。

魅力云々は置いておいてもこの気質のせいで全く物語が進まないんです。あらすじで説明した教授殺害現場へ行ったのだってヒロインの強い押しに屈したせい。何かにつけて行動を嫌がるくせに、既にネットで有名になってるじゃんって事柄には敏感に反応して先駆者を気取るので、本当に良くも悪くも普通のネット民だなあという印象。いるよねアンテナ狭いのに流行物を自分の手柄にしたがるタイプ。

とにかく彼の視点では物語は動かず、根城にしてるバーで座ってるだけで周囲が勝手に裏で事件を進めてます。そして彼はその事実に打ちのめされ落ち込み、ぐじぐじと泣いていたらまた動かざるを得ない事態になる、だけ。

そしてこの視点に固定したせいで、登場人物達の日常や死後の周囲の反応・ドラマなんてものは一切存在しません。彼らは事件をどこかで動かしているだけの見えない歯車に過ぎず、悠太にとってアフィネタ提供者でしかないんじゃないかと思える程。ちなみにその辺アニメはちゃんとしてます。彼らが自身の死を周囲の反応で察し、だからこそ生き返りの光明が見えた時には「何としてでも」という気迫を感じさせる事に繋がる訳です。ゲームだとそれらは全て、彼らの口からあっさりした台詞で語られるのみ。あ、はい、そうなんですね、大変だあとしか思えないドライな現代人にはつらい構成。

シュタゲと似ていても決定的に違うのは、悠太自身が物語を動かすキーマンにはなっていないという事。行動も発案もしないせいで、死ぬ前から幽霊状態な主人公のナイーブな内面を延々見させられるおかげで、どんどんやる気が削がれて行くのを感じられました。

そして個別ルートの構成もまた酷い。

どのルートでも共通の事象を挙げるいわゆる『共通ルート』から分岐する訳ですが、その共通ルートが本当に駄目。ストーリーの良し悪しではなく、どの個別ルートに分岐しても共通ルートでは全く同じ話をやります。

当たり前じゃんって思うじゃないですか。違うんですよ。共通ルートはスキップできてなんぼ=同じ話、同じ文章であるのが普通なのに、このゲームはなんと「ルートの数だけ微妙に文章が違うせいで既読スキップ不可の全く展開も話も同じ」という素敵な仕様の共通ルートになっているんですね。

一つだけ、他のルートでは影さえ見せないキャラの登場するルートを除けば、後は本当に全部同じ展開です。その一つのルートでさえキャラが関わる事以外は同じです。

これは後に解説しますが、テンプレがあれば誰でもオカルティック・ナインが書けるのでファンディスクはK社の新人賞受賞した物語自動生成AIにでも作らせればいいと思います。

システムの問題

科学ADVには物語を進行・分岐させる手段として『トリガー』というシステムが存在します。ポジティブ/ネガティブな事象を妄想する事で目の前の人物が(妄想で)脱いだり血反吐はいて死んだりする妄想トリガーや、電話やメールで未来を変えられるフォーントリガーなど、ギミックと物語を上手くリンクさせたシステムだと言えるでしょう。ロボティクス・ノーツはそれが存在しない特異な作品なので省きます。面白いからゲームやってね。

さて、本作のトリガーはブログワードを収集し、それにまつわる記事を書く事で物語を分岐させる『ブログトリガー』です。日常会話に潜む鍵となるワードを収集・記憶、そしてそれでブログを書く事で世間を煽り、リアルで事件に発展し、新たな出会いがあり、物語が進行!僕が書いたブログのせいでこんな事件に巻き込まれるなんて!あの時、あんなワードでブログなんて書かなければ…そうだ、もしかするとブログで未来を変えられるのでは!?よし、次のルートでは違うワードでブログを書いて、絶対にこの惨劇を回避してみせるぞ!

なんてものではまったくもってありません

ギャルゲーに存在する、ヒロイン達との会話で出てくる選択肢。それを1回か2回程度の個数にして配置しただけのものです。

フォーントリガー(シュタゲ)のように、プレイヤーにメール送信ボタンを押させる事で未来の取捨選択を負わせるなんて凝った楽しみもさせてくれず、ただ黄色くハイライトされたワードをボタンひとつで記憶し、来るトリガーのシーンでそれを使ってブログを書くと一律で『【激熱】○○!△△が■■な件について!【胸熱】』という診断メーカーもびっくりなテンプレが形成されるだけです。それを都合4回、物語が変動する訳でもないのに書かされるハメになります。

ちなみに正解の組み合わせはぶっちゃけて言えばありませんが、キーとなるワードを必ず使わないと個別ルートには分岐できず、条件を満たさないままだと必ずバッドエンドになります。

そんな脳死した猿みたいなタイトルのクソ記事を量産してると、我らが悠太くんは素敵な事に「今日は○○(指定してないワード)について書こう。りょーたす*1は○○って知ってる?」と俺達と違う世界線の話をしだすので、そうかオカルティック・ナインの九人目の幽霊は俺達なんだなあと切なくてロマンチックでまだ見えない明日が見えそうな気分にさせられます。

酷い所がこれだけかと思いきやもうひとつ特大の爆弾もあります。うんざりしてきましたか?アニメ観ようね。

悠太が持っている古いラジオ『スカイセンサー』これはカオス・ヘッドのディソード、シュタインズ・ゲートの電話レンジ、ロボティクス・ノーツのガンつくと立ち位置の似た、本作の重要アイテムです。

父の形見であるそれはどんな電波でもキャッチできるよう改造されていて、なんと霊界との交信も可能だとかなんとか。コエンマが出してくる探偵7つ道具かよ。

さて、そんなカッチョイイ物を劇中で我々プレイヤーが弄る機会をこのゲームは与えてくれます。しかも好きな時に、自由にダイヤルをクリクリできるんです。おいおいマジかよ良いのかそんな大盤振る舞い。良いんです。だって、無意味だからね

ストーリーではあり得んくらい重要な役割を持つそれは、システム的には『マスター・マスト・マーダー』なる劇中劇の萌えアニメを観るための道具でしかありません。最初に「色々な場所でラジオを使おう!」と指示されますが、使うのは特定のアイコンが出た時のみ。そこでラジオの周波数をクリクリしてると毒電波をキャッチして『マスター・マスト・マーダー』が始まります。

我らが悠太くんはコミュ障を自称し人の目もまともに見られないヒキオタなんですが、どシリアスな会話の最中にもこの動作は発生し、しかもそれに誰も何のリアクションも返さないため「人と会話してる最中に急にラジオ取り出して萌えアニメを流すヤバい奴」に誰も触れないように努めてるとしか思えない、空気を読むことが重要な現代のオカルトな部分をまざまざと見せつけられます。俺だって嫌だよ、そんなイルな奴に関わるの。

じゃあ見なきゃいいじゃんって訳には行きません。あなたがどれだけ自身を殺された怒りに燃えようと、世界に隠された陰謀に怯えようと、ヒロインの見せる涙に胸を痛めようと、『マスター・マスト・マーダー』だけは観てもらいます。絶対にだ。

だってこれ全部観ないとTRUEルートに行けないんだもん。

 

以上がざっくりした問題点になります。本当はもっとあるのでしょうが、ボクが特にストレスを感じた部分はこれくらいでした。

ここまで読んで「それでも科学ADVなんだからストーリーは面白いだろ」って人のために、次はキャラの紹介、各ルートの感想を書こうと思います。そっちは本格的にネタバレだから気になる人は読まないでね。

 

こんな記事を書いてまでボクが何を言いたかったのかと言うとですね、ぶっちゃけガッカリしたんですよ、チヨスタというか5pbには。

本格的にオタ活動するきっかけになった、ボクの人生すら変えてくれた神ゲーシュタインズ・ゲート』はあらゆる意味で衝撃的でしたし、当時はちゃちなグッズがひとつ出るだけでも狂喜してました。

その後『カオス・ヘッド』に触れ、『ロボティクス・ノーツ』で泣き、『カオス・チャイルド』でまた泣かされた訳なんですが、ぶっちゃけ今回はガッカリ以外の何物でもありません。たとえアニメを観ていなかったとしても、TRUEルートの展開で「ああー」とはなったけどハマらなかっただろうな、と。

期待以上の物は何も無く、ユーザーなんてお構いなしだぜという空気に溢れた本作に、褒めるべき点、布教したいフックなんて物は見受けられませんでした。むしろ、誰にも勧めたくない。アニメのBDだけ貸したい。科学ADVってこんなもんなんだって思われたくない。

これは『カオス・チャイルド』のファンディスク『らぶchu☆chu!』の頃から思っていたのですが、最近の科学ADV、ちょっと手を抜きすぎでは?と。

そりゃシュタゲは売れに売れましたし、発売当初は「ゲーム性が無い」なんて言われながらも口コミによるじわ伸びとアニメ効果でついに大物アニメとして名を挙げられるようになった訳ですよ。だから大切にしたい気持ちも分かるし、持ち上げるのも分かります。

最近、チヨスタ公式アカウントで始まった4コマ漫画企画を見ても一目瞭然ですが、シュタゲの持ち上げは凄いしファンディスクや各種メディアの展開も熱が篭ってます。それは良いんです。だって有名なのはシュタゲだから。科学ADVではないから。

だけど、そこにどんな大人の事情があるにせよ、科学ADVを好きなファンのために他のゲームもちゃんと作ってくださいよ、ホント。

先に挙げたカオス・チャイルドのファンディスクでは、ヒロイン達とイチャラブできるという触れ込みでありながら、一部ヒロインへの冷遇が目立つガッカリゲーになってました。それも扱いづらいからとかじゃなく、ルート実装がされない*2とかそういう扱い。突き抜け方も弱すぎる。これ本当に熱篭めました?

どこぞで見た「好評ならDLCでの追加ルートも検討している」的な発言ももはやどこへやら、すっかり世界線の彼方に忘れ去られちゃっています。

そこで、今回のガッカリゲーに加えて、疑惑のファミ通プラチナ(訂正:プラチナではなくゴールドでした)殿堂入りと、それを受けた千代丸さんの「実はもう他機種移植も考えて作ってます!追加要素も入れます!あ、既プレイヤーにはちゃんと無償DLCにするから怒らないでね」ですよ。シュタゲでやったから*3許されると思ってるのかも知れないけど、あれはあくまでも10面白かったゲームを11にしてくれたのであって、今作のように7を10にしようとかいう物ではありません。と言うより、元がこんな出来なのに根底を覆すような追加要素とか、誰が期待してると思うんですか?

待ち続けたファンは裏切られ、すっかりセレブな社長はアフターケアなんてしてくれず、ああボクの好きだった科学ADVは死んだのかな、なんて暗い気持ちにさせられました。

総プレイ時間は数えていませんが、共通ルートをスキップすれば10時間程度でクリアできるそうなので、手軽にトロフィーを増やしたい人はプレイしてみては如何でしょうか。

ボクは一応、追加要素とやらを見てから身を引くかどうか決めたいと思います。ほんと、頼みますよ、千代丸さん。

*1:ヒロイン。エグい爆乳と緩い言動が特徴。ジェネリックまゆしぃ。

*2:ヒロインの1人、山添うきのルートは実装されなかった。パッケージで脱いでいるにも関わらず、である。なお、主人公の妹はルートが実装された。

*3:かつて『シュタインズ・ゲート』が移植された時も既プレイヤーには追加要素をDLCでプレイさせてくれた。